身体を拡張するロボット(規制緩和の道のり第14話)

2017年07月07日

わたしたちはセグウェイをロボットと呼んでいます。違和感のある人もいるかもしれません。

 有名なロボットスーツHALというサイボーグ型ロボットがあります。筑波大学発のサイバーダイン社が開発しました。

 ロボットスーツHALは、装着することで、いつもより少ない力で歩いたり、動いたり、重いものを運べたりします。歩くのが困難な人が、HALを身につけることで歩けるようになったりします。HALは、歩こうと思っただけで足といっしょに動くので、身につけた人はまさにHALが足の一部になったかような感覚を覚えます。

 セグウェイも同じようなところがあります。人が進もうと思うと、それにともなう微細な身体の傾きを感知していっしょに動きます。絶妙な制御で、セグウェイがまるで足の一部になったかのような感覚を覚えます。  

 セグウェイに乗っていると、運転したり操作しているという感覚がなくなり、自分が進もうと思うと進む、止まろうと思うと止まる、みたいな感じで、セグウェイと身体がいっしょになったかのような一体的な感覚になります。

 これは「身体の拡張」と呼ばれるテクノロジーです。

 身体は、事実、拡張します。脳科学的には、メタファーでなく、生理学的事実として、そうなのだそうです。

 人が両手を伸ばして届く範囲の空間は、ペリパーソナル・スペース(身体近接空間)と呼ばれています。人の脳は、この空間を自分の四肢や胴体と同じように、身体の一部としてマッピングします。知らない人に不用意に自分の近くにこられて不快な気分になった経験は誰でもあると思いますが、これはこのペリパーソナル・スペースが侵されているからなのです。

 目に見えないシャボン玉につつまれているようなイメージです。脳は、そこまでを自分の身体として認識しています。そして、このシャボン玉は、一定の大きさではなく、伸縮自在です。

 馬に乗り、その馬が自分といっしょになって気持ちよく動いてくれれば、そのシャボン玉は、馬のそれと一体となって大きくなります。

 優れたテニスプレーヤーがラケットを握れば、脳はそのラケットまでも腕の一部だと認識し、彼のシャボン玉は広がります。

 一流の料理人が包丁を握れば、それはその人の腕の一部となって、シャボン玉が広がり、見事な包丁さばきが生まれます。

 馬や道具など、周囲のものまで含めて、脳がそこまで身体の一部だと認識することで、人は優れたパフォーマンスを発揮することができるのです。

 

 これを「身体の拡張」と呼ぶわけですが、身体の拡張感覚が生まれるためには、道具も優れたものである必要があるし、使う人もそれなりの習得時間を要するものです。

 馬に乗るにしても、スポーツにしても、身体の拡張を実感するには相当な時間が必要になります。一方、セグウェイは数分の練習で誰でも簡単に足の一部となる感覚をもたらし、無意識に身体の拡張をすぐに実感することができるよう、絶妙なバランスで作られています。

 

 そして、そのように身体性が拡張することは、実はそれ自体が気持ちがよいことです。脳がそのように認識するようにできているのでしょう。道具を使うスポーツなどでよいパフォーマンスをして気持ちがよいのは身体性が拡張したことがもたらす満足感なのです。さらにはチームスポーツで、皆の意志が一つとなってよいプレイをしたときも、個々の身体が拡張し繋がり、一つとなった瞬間と言えます。身体が拡張し、他の何かと繋がるということそれ自体に、人は喜びを感じます。

 

 身体の拡張。これが、多くの人がセグウェイに乗って、すぐ笑顔になって、心にゆとりをもたらし、コミュニケーションや譲り合いの気持ちを生み出す理由の一つなのです。

 

 テクノロジーというと、生活を便利にしたり、楽にしたり、省力化したり、効率化したりとイメージしがちですが、本当に優れたテクノロジーは、単に利便性や効率性を上げるだけでなく、人の身体を拡張したり、感覚を研ぎ澄ましたり、人の本来の能力を引き出したり、人に寄り添ったり、人を優しくしたり、人の可能性を広げるものなのだろうなと思う今日この頃です。

(つづく)